未来テックシティ2026 Shownote:最適化と最適化のあいだにあるもの

 

最適化と最適化のあいだに、何があるのか

未来テックシティ2026/Demo Day
2026年10月26日・神戸
講演:The Missing Variable: What Happens Between the Interventions
松田干城(Tateki Matsuda)

寿命を延ばせるとしたら、その時間で、どんな人生を送りたいでしょうか。

プロの格闘家だった頃、タテキの生活は計量に向けて組み立てられていました。その後、バイオハッキングを通じて、身体の状態を測り、変えていく道具を知りました。ただ、健康の最適化に熱心になるほど、注意が自分の数値、自分のパフォーマンス、自分の未来へと向かっていくこともあります。

西洋で暮らす日本人として、あらためて耳に残るようになった日本語があります。腹八分目、知足、おかげさま、そして「間」。数値を並べたダッシュボードだけでは答えられない問いを、こうした言葉から考えるのが今回の講演です。

このShownoteでは、個人の経験、科学研究、文化についての解釈を分けながら、講演の要点と参考文献、日常で考えるための問いをまとめます。

講演の要点

  • 数値には、文脈が必要です。体重、ホルモン値、睡眠スコア。それぞれが教えてくれるのは、身体や生活の一部です。

  • 自分で試した経験は、次の問いを生みます。一人の体験から、誰にでも通じる治療効果を結論づけることはできません。

  • 「十分」を知ることも、練習です。腹八分目や知足は、食欲、向上心、何かを足し続ける習慣を振り返るきっかけになります。

  • 健康は、周りの人に支えられています。おかげさまという言葉は、自分一人では見えにくい支えに目を向けさせます。

  • 間は、別の応答が生まれる余地にもなります。見ること、回復すること、会話すること。そのあいだの時間を考えます。

135、125、そして55という数字

講演では、135ポンドや125ポンドの計量映像に続いて、55ng/dLというテストステロン値を紹介しています。激しい練習と減量をしていた時期、タテキは医師から性腺機能低下症と診断されました。

その後の検査では数値が基準範囲内に戻り、医師の書面には、トレーニングや食事の変更がうまくいっているようだと記されていました。

これはタテキ個人の経過です。複数の変化が重なっているため、どの変更が原因だったのかは切り分けられません。特定の製品や方法の効果を証明するものでもありません。検査の基準範囲は施設によって異なり、過去の検査画像だけで経過全体を判断することもできません。

ここで考えたいのは、「もっと頑張る」が役に立たなくなった時に、自分でそれに気づけるかということです。

生活が、次々と試す手順になった時

測定、サプリメント、回復の習慣。身体について試しながら、一方では自分やクライアントのために70品の料理を作りました。栄養を、実際においしく食べ、続けていける生活へ戻してくれるのが料理でした。

7日間の水断食を試した時には、空腹感、エネルギーの感覚、睡眠、ウェアラブルの記録を追いました。疲れや眠りにくさを感じる日もあり、その後、空腹感が変わり、調子がよく感じられるようにもなりました。終盤には90分間のボクシング練習までしています。後から振り返ると、その時の判断は適切だったのかという疑問が残ります。

気分がよいことと、身体の状況が安全であることは同じではありません。ウェアラブルの睡眠段階は推定値で、脳活動や筋肉のグリコーゲンを直接測ったものではありません。睡眠スコア、ケトン体、頭が冴える感覚は、それぞれ異なる情報です。そのどれか一つで、寿命への効果までわかるわけではありません。

この体験は、断食の実践手順として紹介するものではありません。長期の断食にはリスクがあり、とくに持病や服薬がある場合には、医療者による事前の評価と管理が必要です。

腹八分目、知足、養生、おかげさま

腹八分目

満腹まで食べきらず、少し手前で箸を置く。ほどほどを知る言葉として、食欲や満足感を考えるきっかけになります。ただし、正確なカロリーの割合や、特定の分子経路の活性化を意味する言葉ではありません。薬に代わる効果が証明された習慣として扱うこともできません。

知足

足るを知る。十分な努力、十分な情報、十分な消費とはどのくらいか。もっと良くしたいという気持ちを持ちながら、どこで手を止めるかを考える言葉です。

養生

何を食べ、どう休み、日々をどう整えるか。生活の条件へ目を向ける言葉です。歴史的な養生の教えと、現在の医療上の助言は区別して読む必要があります。

おかげさま

食事を用意してくれる人、相談できる医療者、時間をつくってくれる家族。健康を支えているのは、自分の努力だけでしょうか。誰の支えがあって今の生活が成り立つのかを考えます。

これらはそれぞれ異なる背景を持つ言葉です。一つの「古代日本の科学」としてまとめたり、日本人の寿命を説明する根拠にしたりする意図はありません。

「間」を、暮らしと技術から考える

建築、音楽、会話。間は、ものや出来事のあいだの空間、時間、関係を考える言葉です。JAPAN HOUSEの解説も、その広がりを知る入口になります。

格闘技の「間合い」には、距離と時間の両方があります。届く位置にいるのか。相手が応答する前に動けるのか。相手の動きによって、できることが変わります。

部屋の配置は、人の動き方を変えます。床の間の花は、その周りの空間とともに見えてきます。同じ場所でも、日光の入り方が変われば印象が変わる。会話でも、相手が話し終えた後、すぐに言葉を重ねる時と、少し待つ時では、次に出てくるものが違うかもしれません。

講演で使う「Space for Possibility(可能性のための余地)」は、タテキ自身の解釈です。「間」の唯一の直訳でも、生物学的な仕組みの名称でもありません。同様の感覚が、日本以外の文化にないという意味でもありません。

講演に登場する言葉

間取り、床の間、合間、間を取る、間隔、一期一会、生きがい、余白、侘び・寂び、和敬清寂。身近な場面に置きながら、それぞれの違いを考えます。侘びを控えめな簡素さ、寂びを時の経過や古びた趣から考えることはできますが、「不完全なものは美しい」という一言では捉えきれません。

増えた時間で、どんな生活をつくるのか

バイオテクノロジーが寿命や生活の質を変える可能性を考える時、その技術が使われる毎日にも目を向けたいと思っています。

その製品は、自分で判断する力や、人との関係をどう支えるのか。使うために、誰の時間、お金、注意が必要なのか。どんな暮らしを前提にし、誰が使いにくくなるのか。

AIによって判断が速くなる時も、「何をする価値があるか」を考える時間は残るでしょうか。作業を任せることと、自分で考え直すことを、どこで分けるのでしょうか。

自分の数値から始まった問いを、誰かと一緒に生きる生活へ広げていく。それが、この講演で考えたいことです。

講演の後に考える、六つの問い

  1. 普段見ている数値を一つ選ぶ。何を直接測り、何を推定し、何を含まないのか。どんな証拠があれば解釈を変えるかも書いてみます。関連論文では対象者、比較条件、評価項目、追跡期間を確かめます。

  2. 自分にとっての「十分」を考える。調べもの、買い物、仕事、記録。今日はどこまでで十分でしょうか。「知足」を、具体的な行動に置いて考えます。

  3. 一つの部屋を観察する。距離、光、音を見て、時間を変えてもう一度訪れます。変わったのは部屋なのか、時間なのか、自分の注意なのかを比べます。

  4. 健康を支えている人を三人思い浮かべる。その人の働きに、どう気づき、どう感謝を伝えられるでしょうか。

  5. 製品や研究を、普通の一日から説明する。利用に必要な時間、お金、注意や支援を挙げます。数値の改善に加えて、生活の中で何ができるようになるのかを考えます。

  6. AIに任せる判断を一つ選ぶ。自動化したい部分と、考え直す・断る・別の人の意見を聞く余地を残したい部分を分けます。その待ち時間は、判断に役立つ間でしょうか。それとも、余計な手間でしょうか。

これらは観察と思考のための問いです。食事、治療、トレーニングを変更する課題ではありません。

読み進めるために

「間」に関心があれば、JAPAN HOUSEの解説から、部屋の観察や『茶の本』へ。身体の話を深めるなら、スポーツのエネルギー不足、回復、断食研究を読み、検査値、パフォーマンス、長期的な健康を区別してみてください。自分を取り巻く環境へ目を向けるなら、生きがいや社会的なつながりの研究から、関連と因果の違いを考えることができます。

増やそうとしているその時間で、誰と、どんな毎日を送りたいですか。

Shownote:科学研究と参考文献

スポーツにおける相対的エネルギー不足(REDs)

Mountjoy M, et al. 2023 International Olympic Committee’s (IOC) consensus statement on Relative Energy Deficiency in Sport (REDs). British Journal of Sports Medicine. 2023;57:1073–1097.

問題となる低エネルギー利用可能性と、男女の健康・パフォーマンスを考える合意声明です。タテキ個人の診断を、この資料から行うものではありません。

原文を読む

回復とパフォーマンス

Kellmann M, et al. Recovery and Performance in Sport: Consensus Statement. International Journal of Sports Physiology and Performance. 2018;13(2):240–245.

練習や試合だけでなく、生活上の負担や個人差を含めて回復を考える資料です。

原文を読む

7日間の完全なカロリー制限と、血中タンパク質の変化

Pietzner M, et al. Systemic proteome adaptions to 7-day complete caloric restriction in humans. Nature Metabolism. 2024;6:764–777.

12人の参加者を対象とし、対照群のない研究です。血漿タンパク質の変化は、寿命が延びることや、推奨される断食期間を証明するものではありません。

原文を読む

7日間の断食と運動時の身体能力・代謝適応

Kolnes KJ, et al. Effects of seven days’ fasting on physical performance and metabolic adaptation during exercise in humans. Nature Communications. 2025;16:122.

13人を対象とした研究では最大筋力は変わらず、最高酸素摂取量は13%低下しました。タテキの体験の原因を特定したり、長期的な安全性を示したりする結果ではありません。

原文を読む

消費者向け睡眠テクノロジーの位置づけ

Khosla S, et al. Consumer Sleep Technology: An American Academy of Sleep Medicine Position Statement. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2018;14(5):877–880.

機器の妥当性と、測定結果の解釈を考える資料です。現在の全製品を評価した報告ではありません。睡眠段階の推定値から、断食の効果を判断することもできません。

原文を読む

生きがいと死亡率:大崎研究

Sone T, et al. Sense of life worth living (ikigai) and mortality in Japan: Ohsaki Study. Psychosomatic Medicine. 2008;70(6):709–715.

日本の成人43,391人を対象とした観察研究です。生きがいを感じないことと死亡率の高さに関連が見られましたが、因果関係を証明するものではありません。

原文を読む

社会的なつながりと死亡リスク

Holt-Lunstad J, Smith TB, Layton JB. Social Relationships and Mortality Risk: A Meta-analytic Review. PLOS Medicine. 2010;7(7):e1000316.

148件の研究をまとめ、社会的な関係と生存との関連を検討しています。一つの習慣や「おかげさま」という考え方によって、寿命が何年延びるかを示す資料ではありません。

原文を読む

日本文化と言葉を考えるための資料

「間」の入口

JAPAN HOUSE Los Angeles:A Perspective on the Japanese Concept of Ma。建築、音楽、会話などから「間」を考える解説です。

日本の美学

Stanford Encyclopedia of Philosophy:Japanese Aesthetics。美学の概念を一語の訳に縮めず、背景とともに読むための資料です。

岡倉覚三『茶の本』(1906年)

The Book of Tea。とくに第4章「茶室」は、空間や簡素さについて考える手がかりになります。

谷崎潤一郎『陰翳礼讃』

In Praise of Shadows(英語版書籍案内)。光、陰影、素材と暮らしをめぐる随筆です。

貝原益軒『養生訓』

Cultivating Ch’i(William Scott Wilson訳・英語版書籍案内)。歴史的な生活思想として読み、現代の医療上の推奨とは区別します。

関連する記事

インド・ロンジェビティサミット2026 Shownote:ストレスと回復

120歳のその先へ:長寿に欠けている「人間の一貫性」の科学

タテキノートの記事一覧/講演・取材のお問い合わせ

出典と解釈について

本文は英語版の講演解説をもとにした日本語Shownoteです。体験談、発表済みの研究結果、日本語や文化についてのタテキの解釈を区別して紹介しています。文化的な概念を生物学的な効果の証拠として扱うものではありません。

 
Heritage Pullover Hoodie, All over Logo | Tateki Tech
from $65.00

Casual and athletic in design, Tateki Tech presents All Over Print pullover in black. It features a Tateki Tech script pattern throughout for signature style. This sporty top features a drawstring hood and the classic allover logo makes a statement. Ribbing at the hem and cuffs adds comfort and shape to this layer.

Detail

All-Over Print Unisex Hoodie has a comfortable relaxed fit, and a fabric that feels soft to the touch thanks to the unique cotton and polyester blend. The brushed fleece inside makes this hoodie a true wardrobe favorite.

  • 70% polyester, 27% cotton, 3% elastane

  • Fabric weight: 8.85 oz/yd² (300 g/m²)

  • Soft cotton-feel fabric face

  • Brushed fleece fabric inside

  • Unisex style

  • Overlock seams

  • Download CPSIA compliance certificates here

NEWS

OPTIMIZED LIFE

TATEKITCHEN

BLOG

 
Next
Next

120歳のその先へ:長寿に欠けている「人間の一貫性」の科学