日本式クロノトリガー: 時間と長寿の再定義

 

定時法と不定時法:時を追う?時が来る?

Rethinking Longevity Through Japanese Wisdom and Modern Science

日本の知恵と現代科学で長寿を再考する

時間をどう捉えるかが、生体マーカーと同じくらい長寿に重要かもしれないということをご存知でしょうか?

私たちは時間の節約に執着している。そう、タイパ。タイパと忙しい現代人は日々奮闘しています。(タテキもそうです)時間を有限な資源として扱い、管理し、バイオハックし、制御しようとする。バイオハッカーからホロライファーに変わった今年、記念すべきアジア初日本初のサミットで、タテキが皆さんに何を共有できるか考えました。プロ格闘家として、金網の中で命懸けで戦う時、時間など全く存在しなかった経験は、世界中のバイオハッカー達の中で自分だけだと強く感じました。そこで注目したのは昔の日本人の時間概念でした。

先日、東京で開催されたHololife Summit 2025で、世界中から集まったバイオハッカー達に時間概念、バイオリズムと社会との時間軸を意識して人間の最適化を再考するよう話しました。生化学や生理学に囚われがちですが、真の長寿とは200歳まで生きることではなく、今日をいかに深く生きるかです。

古代哲学と最先端科学を融合させたタテキの基調講演から、重要なポイントを以下にまとめます。

未来を追い求めることは、現在という刻を代償に差し出すことに他ならない。

内なる時計は、未だ来ぬ未来のために、手の中にある「今」を燃料として焼き尽くす。

時間を真に統べるとは、それを支配することにあらず。それと同期することにあり。

単に長く生きようとせず、深く生きよう。 なぜなら、生命の真実は、深く潜ったその瞬間にこそ宿るのだから

—たてき

まとめ & 要点

  • 哲学:時間を「管理」するから「同期」するへ転換しよう。現在を犠牲にして未来を追うのをやめよう。

  • リズム:概日リズム(日単位)と超日リズム(月単位/季節単位)に基づきスケジュールを最適化させる。女性は生理周期に合った生活を心掛ける。

  • コミュニティ(共同体): 老いによる「孤立」と戦うために、何よりも社会的つながりを優先しよう 。

  • マスタークロックの不在: 時間は相対的(物理学)であり、かつローカル(生物学)なもの。他人の時計ではなく、あなた自身の「固有の時間」を生きよう。

  • 一貫性(Coherence)> 蓄積(Accumulation): サーカディアン(概日)とインフラディアン(超日)のリズムを整える。真の長寿は、単なる積み重ねではなく「同期」から生まれる 。

  • 内省的な最適化(Reflective optimization): データは有用だが、そこにプレゼンス(今ここにある感覚)が伴わなければ、人生をただ空虚に加速させるだけで終わってしまう 。

  • ゆらぎ(Variability)のためのデザイン: 月経サイクルや季節のリズムを尊重し、自然に抗うのではなく、自然と「共に」最適化しよう 。

  • 秒速の深度(Depth per second): 新しい体験、深いつながり、そしてマインドフルな孤独。これらが、あなたが生きる体感時間を物理的に引き伸ばす 。

長寿を「より多くの時間を追い求める」ことから「時間との同期」へと再定義をテーマに話しました。物理学、クロノバイオロジー、日本の時間文化(和時計/不定時法)、禅、そして格闘技におけるフロー体験を基に、身体の時計(概日/超概日リズム)、社会的リズム、瞬間瞬間の気づきを調和させることで健康寿命が拡大するのでは、と問いかけました。西洋的な最適化(時は金なり)は合理的だが、存在感なくしては不完全です。日本の視点は自然との相互関係を加え、時間はただ過ぎ去るのではなく、近づいてくる概念。それは和時計の文字盤を作った昔の日本人が感じていた事です。私たちの課題は、それをよく受け止めることでです。

Showノート:

The Philosophy of Time

Janet’s Law / Time Compression (ジャネーの法則-年齢を重ねるごとに時間が早く過ぎると感じる心理現象)> The Theory of Morals by Paul Janet, Mary Chapman Review by: Francis G. Peabody Science, Vol. 3, No. 59 (Mar. 21, 1884), pp. 360-362 (3 pages)

Human time perception and its illusions (人間の時間知覚とその錯覚) > Eagleman DM. Human time perception and its illusions. Curr Opin Neurobiol. 2008 Apr;18(2):131-6. doi: 10.1016/j.conb.2008.06.002. Epub 2008 Aug 8. PMID: 18639634; PMCID: PMC2866156.

Circadian physiology of metabolism (代謝の概日生理学)> Panda S. Circadian physiology of metabolism. Science. 2016 Nov 25;354(6315):1008-1015. doi: 10.1126/science.aah4967. PMID: 27885007; PMCID: PMC7261592.

Gender Data Gap データーには男女差がある

Relative dearth of 'sex differences' research in sports medicine (スポーツ医学における「性差」研究の相対的な不足) >Schilaty ND, Bates NA, Hewett TE. Relative dearth of 'sex differences' research in sports medicine. J Sci Med Sport. 2018 May;21(5):440-441. doi: 10.1016/j.jsams.2017.10.028. Epub 2017 Nov 3. PMID: 29248307; PMCID: PMC5927370.

IJES Self-Study on Participants' Sex in Exercise Science: Sex-Data Gap and Corresponding Author Survey (運動科学における参加者性の自己研究:性データ格差と対応著者調査) > Garver MJ, Navalta JW, Heijnen MJH, Davis DW, Reece JD, Stone WJ, Siegel SR, Lyons TS. IJES Self-Study on Participants' Sex in Exercise Science: Sex-Data Gap and Corresponding Author Survey. Int J Exerc Sci. 2023 Mar 1;16(6):364-376. doi: 10.70252/DZZC8088. PMID: 37123815; PMCID: PMC10128117.

Brain insulin action on peripheral insulin sensitivity in women depends on menstrual cycle phase (女性の末梢インスリン感受性に対する脳内インスリン作用は月経周期の段階に依存する) > Hummel J, Benkendorff C, Fritsche L, Prystupa K, Vosseler A, Gancheva S, Trenkamp S, Birkenfeld AL, Preissl H, Roden M, Häring HU, Fritsche A, Peter A, Wagner R, Kullmann S, Heni M. Brain insulin action on peripheral insulin sensitivity in women depends on menstrual cycle phase. Nat Metab. 2023 Sep;5(9):1475-1482. doi: 10.1038/s42255-023-00869-w. Epub 2023 Sep 21. PMID: 37735274; PMCID: PMC10513929.

Changes in sleeping energy metabolism and thermoregulation during menstrual cycle (月経周期における睡眠時のエネルギー代謝と体温調節の変化) > Zhang S, Osumi H, Uchizawa A, Hamada H, Park I, Suzuki Y, Tanaka Y, Ishihara A, Yajima K, Seol J, Satoh M, Omi N, Tokuyama K. Changes in sleeping energy metabolism and thermoregulation during menstrual cycle. Physiol Rep. 2020 Jan;8(2):e14353. doi: 10.14814/phy2.14353. PMID: 31981319; PMCID: PMC6981303.

Insulin Sensitivity, Food Intake, and Cravings with Premenstrual Syndrome: A Pilot Study (月経前症候群におけるインスリン感受性、食物摂取量、および渇望感:パイロット研究) > Trout KK, Basel-Brown L, Rickels MR, Schutta MH, Petrova M, Freeman EW, Tkacs NC, Teff KL. Insulin sensitivity, food intake, and cravings with premenstrual syndrome: a pilot study. J Womens Health (Larchmt). 2008 May;17(4):657-65. doi: 10.1089/jwh.2007.0594. PMID: 18447765; PMCID: PMC3319142.

Association between subjective and cortisol stress response depends on the menstrual cycle phase (主観的ストレス反応とコルチゾールストレス反応の関連性は月経周期の段階に依存する) > Duchesne, A., & Pruessner, J. C. (2013). Association between subjective and cortisol stress response depends on the menstrual cycle phase. Psychoneuroendocrinology, 38(12), 3155–3159. https://doi.org/10.1016/j.psyneuen.2013.08.009

Effects of the menstrual cycle on exercise performance (月経周期が運動能力に及ぼす影響) > Janse de Jonge X. A. (2003). Effects of the menstrual cycle on exercise performance. Sports medicine (Auckland, N.Z.), 33(11), 833–851. https://doi.org/10.2165/00007256-200333110-00004

Impact of Menstrual cycle-based Periodized training on Aerobic performance, a Clinical Trial study protocol—the IMPACT study (月経周期に基づく周期化トレーニングが有酸素能力に及ぼす影響:臨床試験研究プロトコル―IMPACT研究) > Ekenros L, von Rosen P, Norrbom J, Holmberg HC, Sundberg CJ, Fridén C, Hirschberg AL. Impact of Menstrual cycle-based Periodized training on Aerobic performance, a Clinical Trial study protocol-the IMPACT study. Trials. 2024 Jan 29;25(1):93. doi: 10.1186/s13063-024-07921-4. PMID: 38287424; PMCID: PMC10823667.

Time Curve: The Loneliness of Longevity タイム・カーブ:長寿の孤独

Who Americans spend their time with, by age, All people 年齢別に見たアメリカ人の時間配分先(全人口) > Our Would in data: Measured in hours per day, based on averages from surveys in the United States between 2010 and 2023.

Social Relationships and Mortality Risk: A Meta-analytic Review (社会的関係と死亡リスク:メタ分析的レビュー) > Holt-Lunstad J, Smith TB, Layton JB. Social relationships and mortality risk: a meta-analytic review. PLoS Med. 2010 Jul 27;7(7):e1000316. doi: 10.1371/journal.pmed.1000316. PMID: 20668659; PMCID: PMC2910600.

Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity (瞑想経験は、デフォルトモードネットワークの活動と接続性の差異と関連している)> Brewer JA, Worhunsky PD, Gray JR, Tang YY, Weber J, Kober H. Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Dec 13;108(50):20254-9. doi: 10.1073/pnas.1112029108. Epub 2011 Nov 23. PMID: 22114193; PMCID: PMC3250176.

引用元:セイコーミュージアム https://museum.seiko.co.jp/knowledge/relation_15/

時間は資源ではなく、訪れるもの

西洋では、時間を通り抜ける道と見なす、つまり通過するものだ。私たちは常に未来へと走り続ける。直線を引いて、左が過去、真ん中が現在、そして右側が未来と黒板に書くのは容易に想像できると思います。しかし明治以前、日本人の時間観は根本的に異なっていました:時間は個人に近づいてくるものと見なされていた、ことをご存知でしょうか?

和時計を見ると、時計の針が動くのではなく、文字盤が針に向かって動く作りです。

これは単なる言葉遊びではなく、時間の概念を全てを変えてしまいます。

  • 西洋的視点:時間は絶対的な存在として定数となり、時間との競争を強いられている。これが不安や燃え尽き症候群、そして「未来を追いかける」の思考パターンを生む。より良い明日のために、今この瞬間が犠牲にされる。

  • 日本的視点:自分が錨(いかり)となり、時間はあなたのもとへやってくる。大切なのは時間を支配することではなく、それに同調することだ。(夏至や冬至で日の長さ違う為、日本人は自然のリズムと過ごす時間を同調していた)

格闘家として、この状態を身をもって知っています。金網の中では過去も未来も存在しない。ただ今この瞬間に即座に対応することだけです。次のラウンドを考えていると、ノックアウトされる。瞬間の行き方は人それぞれですが、今を生きることは、現代の最適化がもたらす燃え尽き症候群への解毒剤だと思っています。

生物リズムを尊重する(概日リズム vs. 超日リズム)

自らの生物学に逆らうなら、バイオハッキングは無意味です。概日リズム(24時間周期)、体内時計の方がわかりやすいでしょうか?。これは朝のコルチゾール急上昇から夜のメラトニン分泌まで、あらゆる生命活動を支配しています。

バイオハッカー達が優先する科学的根拠は、1日を超える周期である超日リズムをほぼ無視してきた。これは女性の健康最適化における重大な欠落です。女性は28~36日のホルモン周期を経験するにもかかわらず、研究対象のほとんどが男性であり、真のバイオハッキングにはこの生物学的変動性を認識することが不可欠であるにもかかわらず、多くの「科学的アプローチ」は生産性や効率性を重視されます。

社会的時間の曲線

おそらくタテキにとって最も問いかけたかった事は、上記の「社会的時間の曲線」です。加齢に伴い、一人で過ごす時間は増加し、友人や家族と過ごす時間は減少する、とデーターは示しています。

もし私たちの目標が「120歳以上の寿命延長」なら、問わねばならいけません:孤独に耐えられる準備はできているか?

良好な人間関係は、充実した人生における最も明確な要素であることは大分知られてきています。あらゆる交流が「内なる時間の質量」を深め、人生に質感と重みを与えます。共同体なき長寿は、ただ長く孤独な待ち時間に過ぎません。ミトコンドリアを最適化するのと同じ厳格さで、人間関係を最適化しなければいけないと思います。

制御ではなく調和を

タテキの母の名は和子で、「調和する」という意味だ、と三年ぶりに日本に帰国した息子が基調講演中に言いました。母親は英語がわからず、自分のことを話されていることに全く気づいていませんでしたが、18歳で日本を飛び出し、今の今まで格闘技やらバイオハッキングやらと好きなことをやらせてもらっている自分自身はどうなんだ?と自分も含めて。ウェルネスのその先を目指す全員が考えるべきだと思っています。

今回伝えたかったタテキの哲学の核心は、「省察なき最適化は加速を生むが、進化をもたらさない。私たちは「人間である」のではなく「人間となる過程」になりつつある」ということです。

科学は時間の構造を解読するが、文化は時間の使い方を形作る。単に長寿を追い求めず、自らの身体と周囲の世界の自然なリズムに同調しよう。長く生きるだけでなく、深く生きよう!

また、次のリズムでお会いしましょう。

 

OPTIMIZED LIFE

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