「Sick Care」の終焉と「Health Creation」の幕開け:10兆ドルのパラドックスに挑む

 

ボストンで問う、科学の「出口」

ボストン、ケンブリッジ。世界最高峰の知性が集うこの街で、第10回 Japan-US Science Forum が開催されました。MITの講堂に響くのは、代謝、幹細胞、栄養学の最先端の議論。

場違いでしたが、テーマが「MetabolismとHealth」だったのでウェルネス従事者として参加してきました。フォーラムでは将来有望な研究者や学生に混じって、一つの「不都合な真実」を問いかけるフラッシュトークをする機会がありました。

「画期的な科学は、一体どこへ向かうのか?」

私たちは、その集合知としての輝きを、単に「人間の生物学的機能が崩壊するのを待ち、病気になってから治療するシステム」を、ただ続けるためだけに使っているのではないか?

タテキのフラッシュトークのタイトルは、「From Sick Care to Health Creation(病気治療から健康創造へ)」

これは単なる医療批判ではありません。10兆ドル規模の経済的損失と、6.3兆ドル規模の新たな市場機会、そして何より、我々人類が「どう生きるか?」という哲学的な問いへの挑戦です。全世界で10.6兆ドル規模を医療費に費やしている事実と、新たに台頭する6.3兆ドル規模のウェルネス経済(予防医療)との間に横たわる深い溝に橋を架ける試みです。

10.6兆ドルの罠

私たちはまず、現在の軌道における残酷な現実を直視しなければいけません。数字は嘘をつきません。その数字が描くのは、システム全体の破綻の図です。

世界保健機関(WHO)によると、2023年の世界医療費支出は驚異的な10.6兆ドル(約1,650兆円)に達しています。これを俯瞰すれば、アメリカのGDP4割に匹敵する額を、世界は医療システムに注ぎ込んでいることになります。この投資に対する論理的なリターン、つまり投資の対価は長寿と国の活力であるはずです。

しかし、データが示すものは恐るべきパラドックスです。

コストと成果の乖離

タテキのポスター左側に表示している「平均寿命対医療費支出(Lifespan Expectancy vs. Healthcare Expenditure)」の散布図が示すように、支出と健康成果の相関関係は崩壊しています。特に米国は最も極端な外れ値を示しています。一人当たりの支出が指数関数的に増加しているにもかかわらず、健康寿命の延伸は見られず、むしろ平均寿命は停滞、一部の層では低下さえしています。

ヘルスケアにお金を費やせば費やすほど、病気は治り、人々は健康になり、寿命が伸びるはずなのにアメリカに至っては逆転現象が起こっています。

皮肉なことに我々は、病気でいるために、より多くのお金を支払っている。これを「Sick Care Paradox」と研究者や教授たちに訴えました。

資源の誤配分(90対10のルール)

なぜこのシステムは崩壊しているのか?答えは、資源の致命的な不均衡にあります。

米国疾病予防管理センター(CDC)のデータによれば、同国の年間医療費の90%は、慢性疾患およびメンタルヘルスの治療に費やされています。

我々は「健康創造(Health Creation)」ではなく、「ダメージコントロール」に資金を投じている現実があります。「健康の決定要因(Determinants of Health)」を見れば、その悲劇はさらに深まります。研究が一貫して示しているのは、健康成果の80〜90%が環境要因、社会経済的地位、そして決定的なことにライフスタイル(代謝と食事)によって左右されるという事実です。臨床的な医療ケアが我々の全体的な健康に寄与するのは、わずか10〜20%に過ぎません。

それにもかかわらず、我々は金融リソースのほぼ全てを、10%の臨床領域に割り当て、我々の運命を実際に決定している90%を無視しています。火事になったらどうするか?問題を、火の用心や、迅速な消化活動ではなく、火が家を焼き尽くした後にのみ介入するように設計されたシステムを、アメリカをはじめ、多くの国が構築してしまっているのです。

代謝の津波(生物学的現実)

経済モデルが症状であるならば、根本原因は何処にあるのでしょうか?

研究者たちはしばしば、心血管疾患、神経変性疾患、糖尿病、がんといった個別の病態ごとに研究を分けて考えます。しかし、視点を全体に引き上げると、これらは互いに独立した問題ではありません。いずれも、単一の全身的な破綻が異なる形で表出した結果にすぎないと個人的には思っています。共通の分母は「代謝不全(Metabolic Dysfunction)」です。

衝撃的な「12%」という統計

ノースカロライナ大学チャペルヒル校による画期的な研究は、すべての公衆衛生当局者を震撼させる統計を提示しています。

「アメリカの成人のうち、代謝的に健康なのはわずか12%に過ぎない」

この事実を受け入れなければいけません。これは、成人人口の88%がすでに代謝的に侵害されていることを意味します。彼らは「健康」ではなく、単に「診断前の状態」、または「ギリギリ病気ではない状態」にあるだけです。88%の個人は、以下の5つの重要な基準のうち、少なくとも1つは望ましくない状態に該当します。

  1. 腹囲(腹部肥満)

  2. 空腹時の血糖値(糖尿病予備軍を示すHbA1cレベル)

  3. 血圧(高血圧)

  4. 中性脂肪(脂質異常症)

  5. HDLコレステロール(脂質不均衡)

これは正に静かなる津波です。インスリン抵抗性と慢性的な炎症から始まり、数十年にわたって蓄積され、やがて病院を圧倒する多疾患として顕在化します。「Sick careシックケア」はこれらのマーカーを個別に投薬治療しようとしますが、水面下で燃え広がる代謝の火災そのものをケアしていません。

6.3兆ドルの覚醒(市場による解決策)

この静かな津波の中にも希望の光はあります。 社会は目覚めつつある状態を、バイオハッカーとしても肌で感じています。消費者は、医療システムが慢性的な衰退から自分たちを救ってくれないことに気づき始めています。彼らは自らの生物学の主導権を握り始めています。お金が動いている方向が、その根拠を示しています。

治療よりも予防!高額な医療費は払えない!この覚醒が、「ウェルネス経済」の爆発的な成長を煽っています。

医療を超える市場

グローバル・ウェルネス・インスティテュート(GWI)が発表した「Global Wellness Economy Monitor 2024」によると、この市場は記録的な6.3兆ドル(約950兆円)の評価額に達しました。

このシフトの規模を理解するために比較してみましょう。世界の製薬産業の評価額は約1.6兆ドルですが、ウェルネス市場は今や、薬を売るビジネスの4倍の規模になっています。

さらに、これは一過性のトレンドではありません。ウェルネス経済は年率7.3%で堅調に成長し、2028年までに約9.0兆ドルに達すると予測されています。この成長率は世界GDPの成長を上回っており、人間の優先順位における根本的なシフトを示唆しています。

科学が介入すべき場所

これを読んでいる皆さんも、資本がどこへ流れているかを見てほしいです。これらは単なる商業セクターではありません。これらは将来の健康インフラの柱になります。

  • 健康的な食事、栄養、減量: 1.09兆ドル

  • 身体活動: 1.06兆ドル

  • 公衆衛生、予防、個別化医療: 7,810億ドル

これらの数字は、病気を単に管理するのではなく、予防するソリューションに対する社会からの必死の需要を表しています。

ギャップを埋める(戦略的責務)

しかし、そこには危険な溝が存在します。

一方には、消費者需要に煽られながらも、しばしば疑似科学やマーケティングの誇張、厳密性の欠如に悩まされる6.3兆ドルのウェルネス市場があります。

もう一方には、MITやハーバードの研究室で行われているような素晴らしい「基礎科学」がありますが、それは往々にして学術誌の中に閉じ込められ、最も必要としている人々に届いていません。

これこそが、予防イノベーションにおける大きな課題です

タテキの戦略

メッセージの核心は、この溝に橋を架けることにあります。

  • 左岸(基礎科学): 我々には分子メカニズム、リピドミクス、幹細胞研究の厳密さが必要。

  • 右岸(社会/経済): 我々には6.3兆ドル市場のスケールが必要。

  • 橋(実装): 「実験台(Lab Bench)」での発見を「市場へのインパクト(Market Impact)」へと翻訳する戦略的インフラが必要。

真の予防とは受動的なものではありません。それはホリスティックな健康への能動的な探求です。ウェルネス従事者がするべきなのは、都市、食料システム、保険モデルといった社会インフラを再設計し、代謝の最適化を一部の特権的な贅沢ではなく、現代生活のデフォルト設定にすることです。

科学的検証こそが、ウェルネス経済において最も希少なリソースだと信じています信じています。 ボストンだけでなく世界の研究は、この新しいインフラのための原材料です。

健康の哲学

最後に、データの底流にある問いを投げかけなければならない。「なぜ?」と。

なぜ我々は代謝的健康を追求するのか? 単に長生きするためか? より多くの富を蓄積するためか? 見た目を良くするためか?

もし我々のゴールが単なる自己保存であるならば、我々は本質を見誤っていると思います。

我々の存在の本質を省みるとき、タテキは我々は人類(Humanity)と呼ばれるより大きな身体の中の細胞である、と哲学に立ち返ります。

搾取か、貢献か

がん細胞は、協力を拒否することによって定義されます。それは宿主からリソースを搾取し、無制限に増殖し、全体に対して何も貢献しません。最終的には、自らを維持するシステムそのものを破壊します。

対照的に、健康な細胞は、システム内で最適に機能し、生物全体の活力に貢献する能力によって定義されます。

我々(We)という視点で 「私は自分の健康、エネルギー、知識を、世界からリソースを搾取するために使っているのか? それとも、貢献し、奉仕し、全体にインパクトを与えるために使っているのか?」と一人一人が少しでも考えるだけで、世界は変わっていくと信じています。

Health is Wealth(健康は資産である)。 これは文字通り真です。一度健康が失われれば、どれほどの金銭をもってしても買い戻すことはできません。しかし、資産とは目的のために使われなければ意味をなさないです。代謝を最適化し、食事を洗練させるのは、個人的な虚栄心のためだけではありません。最適化の先に、我々は活力を養うことで、より良い親、より良いリーダー、より良いイノベーターになることができます。次世代に継続していく健康を構築することで、後に続く世代のために、より健康的で、より強靭で、より公平な世界を、研究者の皆さんと共に創っていきたいです。

Showノート&参照先

1. Market Data: The Global Wellness Economy

Source: Global Wellness Institute (GWI). Global Wellness Economy Monitor 2024. November 2024.

Key Data: Global Wellness Market Size ($6.3T), Projected Growth (+7.3% CAGR to $9.0T), Sector breakdown (Nutrition $1.09T, Physical Activity $1.06T).

Access: Global Wellness Institute Report

2. Healthcare Cost & Chronic Disease Burden

Source: Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Health and Economic Costs of Chronic Diseases.

Key Data: "90% of the nation’s annual health care expenditures are for people with chronic and mental health conditions."

Access: CDC Chronic Disease Data

3. Global Health Expenditure

Source: World Health Organization (WHO). Global Health Expenditure Database.

Key Data: Global health spending reached $10.6 Trillion (approx. 10% of global GDP).

Access: WHO NHA Database

4. Metabolic Health Statistics

Source: Araújo J, Cai J, Stevens J. "Prevalence of Optimal Metabolic Health in American Adults: National Health and Nutrition Examination Survey 2009–2016." Metabolic Syndrome and Related Disorders. 2019;17(1):46–52.

Key Data: Only 12% of American adults meet the criteria for optimal metabolic health.

Access: PubMed (PMID: 30484738)

5. Comparative Health Outcomes

Source: Our World in Data. Life Expectancy vs. Health Expenditure per Capita. Based on OECD Health Statistics.

Key Data: Visual evidence of the widening gap between US healthcare spending and life expectancy outcomes compared to peer nations.

Access: Our World in Data Graph

6. Conceptual Framework: From Self-Optimization to Self-Actualization

Source: Teemu Arina. “The Longevity Goldrush: From Self-Optimization to Self-Actualization”
Keynote Address, Hololife Summit Estonia 2025.

Key Insight:
Reframing longevity from individual biohacking and performance optimization toward systems-level health creation, meaning, and societal impact. Emphasizes the transition from fragmented self-optimization to integrated biological, psychological, and social resilience.

Relevance:
Provides a conceptual bridge between metabolic science, preventive health economics, and human development, aligning scientific advances with long-term societal implementation.

Access: https://hololifesummit.com/

 

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